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【特別対談】「麗しい誤解」が環境問題と経済の両立のカギ

今回、「プラミライ」では、
水野浩行氏(MODECO代表)と、
伊藤勝人氏(株式会社シーティーイー社長)
の対談を行いました。

異なる分野で活躍している2人が日本での環境問題の取り組みをテーマに縦横無尽に議論を展開

日本の環境問題の未来への提言は必見です。

ゲスト

MODECO
水野浩行

2010よりエコロジーがコンセプトのブランド
「MODECO」を設立。
産業廃棄物の削減と有効活用をテーマにした「アップサイクルデザイン」の第一人者として国内外から多数の注目を集める。

2018年より、MODECOでモノづくり
のみならず、
サステナブル社会における企業づくりのため、
HIROYUKI MIZUNO DESIGNを設立。

上場企業から中小企業まで、未来的な企業、事業の設立に向けた顧問、コンサルティングサービスも展開しています。

ホスト

CTE
伊藤勝人

プラスチックの押出機メーカーである
CTEの取締役

プラスチックを環境問題と共存させ、
3Rや生分解樹脂加工などの取り組みを
軸に
サステナブルな社会の
実現に向けて少しでも
社会に貢献をしたいという思いの元、
当メディア「プラミライ」の監修をしています。

環境問題に対する日本の現状

日本でも「脱プラスチック」が語られるのを耳にする機会が増えていますが、
お二人はそれぞれ日本の環境問題をめぐる現状をどのようにお考えですか?

MODECO
水野浩行

正直、話題だけ先行し、
本当に大切なことが見えにくい状況で、
日本では環境問題への取り組みが表面的で、
深く理解されていないと感じる場面にも直面します。

仕方ない部分もありますが、
言葉だけが先を行き、
本当に大切な点が見えづらくなっているのではないでしょうか。

プラスチックは、汎用性がが高く、経済合理性も高い素材なので、
暴力的に話を進めて、プラスチックを極端に悪者扱いするのは
賢明ではないと考えています。

ビジネスに目を向けてみると、
企業の取り組みにはも温度差があるというのが、日々の実感です。

エッジが効いた高いレベルの話ができる企業もありますし、
まだまだエントリー段階の企業や、
事業価値をどのように高めていくのかという段階の企業も当然ながらあります。

CSRの関係もあり、モチベーションは高い企業は多いと思いますが、
どこから手を付けていいのかわからない企業が
多いのではないでしょうか?

CTE
伊藤勝人

私自身、「プラミライ」を立ち上げた理由はそこにあって、
このメディアを通じて、
少しでも多くの日本企業が
CSR的なパフォーマンスによってではなく、
一人一人が子孫のための
責務を全うするための
取り組みをするためにはどうしたらいいかを発信していきたい
と考えています。

MODECO
水野浩行

企業の取り組みという観点では、
これまでは自社のパフォーマンスの指標が、
経済だけだったのが、
「財務以外の領域」でも測られるというのは大きいです。

例えば、 「何の電力を使用しているのか?」や、
「自社だけではなく、サプライチェーン全体での環境負荷はどうなっているのか?」 など
特に上場企業のような海外の投資家を相手にする企業は、対処せざるを得ません。

先進国としての立場を問われているということができるでしょう。

日本企業は、「意識」の面でも、
変えていく必要があります。

日本は何とか内需だけで、
成立しているので、
海外の動向をあまり気にならない
という側面もあるかもしれません。

しかし、日本の資源は8割くらいは
海外に依存している状況です。

地球のつながりを考えたときに、
プラスチック一つとっても、
自分たちの知らないところで問題を起こしている可能性が大いにあります。

「日本で何が起こっているか」だけを見ていればいいのではなく、
グローバルな視点が不可欠
です。

CTE
伊藤勝人

プラスチックの文脈で言うと、
海洋プラスチック問題を触れないわけには、行かないと思いますが、
プラスチックの処分方法やマナー
の影響は大いにあります。

海洋生物に漁網が絡みついてしまうなどの問題は、
無視することはできませんが、 そればかりが先行してしまうと、
今では生活に必要不可欠な素材である
プラスチックとの関わり方の
本質から遠ざかってしまうともいえるでしょう。

プラスチックを
正しく回収、処分ができる
持続可能な社会を
いかに実現していくのかが、
問われます。

そのためには、
しっかりとケミカルリサイクルや
マテリアルリサイクルを行っていくことが必要です。

日本では2030年が
大きなポイントになっていますが、
ここに向けて、補助金も出して、
2025年にケミカルサイクルのテスト設備を
稼働させる計画がありますが、
どうしても、石橋をたたいて渡っているという印象です。

対して欧州はできることは
すぐにやるというスタンスです。
スピード感に違いが出ざるを得ない状況ですよね。

ケミカルリサイクルは
今後のリサイクルの大きな動きになっていきますでしょうか?

MODECO
水野浩行

ケミカルリサイクルは
もともとポリマーだったものを化学に分解して、
モノマーに戻すというリサイクル形式です。

限界値はあるが、これ以上は因数分解はできない状態になるので、
我々、人間の社会がもっと微生物的で丁寧な生活になります。

今までは、収集して埋め立てるか、捨てるかの選択肢でしたが、
ケミカルリサイクルによって、
より持続可能な社会の実現に近づいていく
といえると考えています。

ヨーロッパとの比較でいうと、
文化的なレベルでヨーロッパはエコロジーな考えが根ざしている印象がありますが、
その点いかがでしょうか?

MODECO
水野浩行

「文化」を残しきれなかったというのは日本が一番、
あらゆる意味でストレスを抱えているところだと思います。

SDGsをめぐるアクションでも、
哲学が圧倒的に抜け落ちてしまっています

欧米やオセアニアでも土地に根差したアイデンティティにぶら下がって生きています。

日本は工業立国になって、ひたすらに稼ぐことが是とされ、
大量生産大量消費、価格競争、
どれだけ経済合理性を高めていくのかという価値観で生きてきました。

今まさにそのパラダイムシフトを迫られているといえるでしょう。

残念なことに、日本人は現在、立ち戻れる文化や教えを持っていません
いまだにYoutuberになって一儲けしようという価値観がナンセンスに思えます。

細かい環境論よりも、まずは一つのものを大切にすること。

日本にも「もったいない」という素晴らしい考えがありましたが、
それが経済合理主義による大量消費経済に飲み込まれてしまいました。

「日本人が立ち返るべき基盤となる考えを取り戻す旅が始まった」
と捉えることができるかもしれません。

環境問題に関わる仕事も本来は、素晴らしいことなのに、カッコよくないと思われがちですよね…

CTE
伊藤勝人

どうしても、「光るもの」がかっこいいと思われてしまうのは
仕方ないと思いますが、
僕としては、しっかりと山を守っている人だったりとか、
自然を守る人がヒーローやヒロインであるべきだと思うんですよ。

もちろん、環境問題に対して、
ビジネスの枠組みで取り組んでいる人がいるので、
そういう人に脚光を浴びさせることができればいい流れになると考えています。

我々としては見えていない環境問題に取り組んでいる人(ヒーロー・ヒロイン)も
この「プラミライ」というメディアでどんどん取り上げていきたいですね。

良くも悪くも、SDGsが先行して、
何かやらないといけないという動きになっていることはよいことだと思います。

「SDGs」という言葉がなかった時は、
大袈裟に言えば、環境はどうでもよかったと捉えられていましたし…

環境問題と経済は切って離せないないので、
この二つをいかに両立させるかが、大きな課題
ですよね。

MODECO
水野浩行

環境問題と経済の両立という観点では、
「モノを作る側の人間」が
価格転嫁をできるだけの素晴らしい
プロダクトを
世の中に提供していくこと
ができるかが
ウェイトとしては大きいのではないでしょうか?

どうしても、環境用件でコストプッシュが起こってしまう中で、
「オーガニックコットン」は
非常に良い成功例です。

そもそも、オーガニックだから「優れた素材」であるというわけではなく、
ただ土壌にやさしいというだけです。

ただ、我々は
オーガニックコットンと聞くと、
普通のコットンより
「いい素材」と感じますよね。

こういう「麗しい誤解」をその他の分野でも どんどん増やしていくことが重要です。

製品の中に、美意識を見出せるかどうかが重要そうですね。

MODECO
水野浩行

環境問題に対してプラスなことをやっても、
そこに本人が「楽しさ」を感じることができなければ、
ただただつらいだけですよね。

使っていて、幸せを感じられるか

そういう精神性が伴わないと、
現状、エコフレンドリーな製品が
他の大量生産による製品と戦っていくのは難しいと言わざるを得ません。

消費者としては、どのような行動をしていくといいでしょうか?

MODECO
水野浩行

消費者にあまり責任はないというのが私の考えです。

消費者はあくまで、
与えられたもの、
差し出されたものを
本能的に選んでいるだけです。

一人一人が正しい知識を身に着けるのも大切だとは思いますが、
作り手の問題が大きいです。

フェアトレードの問題で言うと、 消費者と学ぶという話が出てきますが、
この手の教育は非常に難しく、 仕組み自体を変えていったほうがいいです。

自分の幸福につながるのであれば、
消費は発生しますし、
消費者の意識を変える、
「感動」を提供できるか

「作り手」は
そこに逃げてはいけません

CTE
伊藤勝人

おっしゃる通りです。

わたしも、
「作り手」として、
あこがれの職業、
「押出機メーカー」。
それくらいのマインドを持ってやっていきたいきます。

プラミライ編集チームより

異なる領域で活躍するお二人が、「日本の環境問題の現状と未来」というテーマで語らいあった今回の対談。

日本企業における環境問題への取り組みから始まり、最終的には、戦後日本人が失った価値観・哲学の話から、「作り手に求められるプロフェッショナリズム」に至るまで縦横無尽に繰り広げられました。

「SDGs」という言葉が浸透しているからこそ、単なるパフォーマンスではなく、本質的な取り組みは何かを考えて、企業がアクションをとることが次なる一歩として求められるでしょう。